昨日今日の新聞記事に、新卒の離職原因の1つとして、「リアリティ・ショック」なる言葉が紹介されていました。

リアリティ・ショックとは、「入社前に本人が持っていた期待と入社後に遭遇する現実や困難とのギャップが経験されること」とあります。記事は、早稲田大学ビジネススクール准教授の竹内規彦氏BPnetビズカレッジから転載されたものとのことでした。
リアリティ・ショックが発生してしまう背景にはさまざまあると思いますが、結局のところ「誤解」「認識不足」の行き着く先がリアリティ・ショックなのでしょう。
学生側にももちろん責任はあると思いますが、ここでは企業の採用担当者や、会社説明会の担当者の方々の果たすべき責任について、考えてみたいと思います。
たとえば、マスコミに入社したからといって、派手な仕事ができるポジションばかりとは限りませんよね?
営業職などは他の業界と変わらない面も多々あるでしょうし、裏方の仕事があったり、人事・総務・経理といった、業種にはあまり関係のない仕事だってあるでしょう。
ところが、世の中のことがまだ見えていない学生たちには、この「当たり前」のことが、実はよくわかっていません。
正確には「理解できない学生たちが少なくない」という表現になるでしょうか?
技術系の企業で採用をしていると、こんな言葉をもらうことがあります。
「私は文系の学部なので、御社で活躍できる自信がありません」
これこそが、「当たり前のことが実はよくわかっていない」ことの証明ではないかと思います。
学生たちには、会社組織の仕組みなどを知ってもらい、そこから「やりたい仕事」「将来の目標」を考えてもらうやり方も必要なことだと感じます。
大学の就職支援室でも、こうした視点で学内セミナ等をやっているところは、少ないように思います。
たとえば総務、人事、経理といった仕事や、資材・調達部門の仕事、製造計画を立てる部署や、営業スタッフの効率を分析する仕事、お客様相談室やIR活動を専門に行う部署など、企業には実にさまざまな仕事がありますよね。
それらの中には、入社してすぐ配属される可能性がないものもありますが、どうしてもやりたい仕事ならば、面接の段階で強くアピールし、入社後も「将来は○○の仕事がしたい」と希望を伝え続けることで、それがかなう可能性は十二分にあるはずです。
一方で、とても残念な「リアリティ・ショック」があるのもまた事実です。
「残業が多そうな印象はまったくなかったのに毎日23時、24時まで残業している」
「親切な先輩が多いと聞いていたが、みんな忙しすぎて誰も声を掛けてくれない」
こうした理由で退職に至ってしまうのは、大変残念なことだと思います。
採用段階でもう少し情報開示をしておけば、こうした退職を格段に減らすことができ、離職率を下げることが可能になります。
「当社は忙しく、残業も比較的多いですよ。時には23時、24時になることもあるかもしれません」
「みんな忙しそうにしていて声を掛けてもらえる機会は少ないかもしれないけれど、内心は新入社員のことを気にしているから、みなさんから話しかけてくださいね」
こんな風にあらかじめ伝えておけば、それをわかった上で入社したいと思う学生しか応募してきませんし、入社後の「リアリティ・ショック」も減らすことができるのではないでしょうか?
事実、かなり忙しい会社で採用を担当したことがありますが、「残業多いですが、大丈夫ですか?」と伝えると、ちゃんと「研究室では徹夜3日なんていうこともあったので、問題ありません」なんていう骨太な学生さんが残ってくれるものです。
そして、事実私が採用を担当したことのある某社では、かなり残業が多いにもかかわらず、新卒の離職率は10%以下、それも高卒、大卒合わせて10%以下、と、世間でいう“七五三”とはかけ離れた低い離職率を実現していました。
また、会社説明会後のアンケートでは「残業など学生が知りたいと思う情報を隠さず話してくれて好感を持ちました」という声がいくつも聞かれました。
学生さんに誠実に向き合い、信頼関係を作ることが、最終的には離職率を下げ、よい採用につながるように思います。
信頼関係を作り、誤解の種を摘んでおけば、「リアリティ・ショック」を減ずることは可能なのです。